さよなら江ノ電304&354号車

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at Enoshima

今月いっぱいで、74年間走り続けてきた、あの床が木で出来ている江ノ電304号車と354号車が、いよいよ引退とのことなので、最近デジタル一眼「Nikon D70」を手に入れてから、俄然写真熱が増している多彩なる音楽家・浦野さんと共に、急遽「写真を撮りに行こう!」ということになり、今日は朝早くから小田急線で、ちょっと乗り間違えながらも(苦笑)まずは藤沢に向かった。
そこで、いよいよ懐かしの江ノ電。久しぶりに訪れた藤沢駅は、既に知らない駅と化していた。それでも「のりおりくん」なる一日乗車券を購入して、江ノ電に乗り、やがて鵠沼あたりにさしかかると徐々に昔の記憶が蘇って来た。しかもそれらはすべて、あくまでも子供の頃の記憶なので、色彩の中の「黒」を失ってしまったかのような曖昧な記憶ながら、何とも明るい印象を持っている。それにしても、今日は日頃の行いのせいか(笑)その記憶に相応しい「あかるい空」。

実は祖父の家が鎌倉にあったので、ぼくにとって江ノ電は今となっては特別な電車。小学校四年生の時に、父の仕事の関係で二度の転校を繰り返し、東京に再び引っ越してきてから、おじいちゃん子だったこともあって、鎌倉という土地も、故郷のないぼくにとっては特別な場所。そしてぼくは、何度も祖父と一緒に江ノ電に乗って、江ノ島に連れて行ってもらった。

時には、祖父の家がある佐助から、長谷まで歩き、そこから江ノ島。
またある時には、銭洗弁天を抜けて、北鎌倉に出て、そこから鎌倉に戻って、江ノ電で長谷。
そして時には、江ノ島の帰りに由比ヶ浜で下車して、潮干狩りをして、捕れたハマグリを手に帰宅。
そして中学生になって、サーフィンを始めたぼくは、祖父の家から度々稲村ヶ崎に向かった。
それこそ当時ロングしかなかったサーフボードを電車に乗せていいことになったのも、確か江ノ電が最初だったような?

とにかく江ノ電には、いろんな思い出がある。しかもあくまでもぼくにとっての江ノ電は、何と言っても今回引退する、いわゆる鉄オタ的には「300系」と呼ばれているもの。その後は、辛うじて同様の配色に塗られた「レトロモデル」なる車両はあるものの、基本的には、その姿も色も淡泊で、しかもデザインも最悪の新型車両が中心となってしまうとのこと。そしてそれはきっとこの街の風景を変えてしまうのではないかと、今から心配。

ぼく達は、その馴染みのない新型車両にコトコトと揺られながら、まずは街中を走る「江ノ電」を撮影しようと、江ノ島で下車。そして江ノ島側とは反対側の、浦野さんお薦めの撮影ポイントに向かうと、既に数人の「鉄オタ」。最初はそれに混じって電車を待っていたけれど、その目の前にちょっと面白いお店を発見。

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何とこれは、「江ノ電もなか」なる和菓子屋さん。しかもこの車両の中で本当に作っている。(笑)
それにつられて、フラフラといったおかげで、そこで新たなビューポイントを発見する。そして、そこで撮れたのが一番上の写真。「さよなら304号車」というヘッドマークも付いている!
そんなわけで、まずは満足の一枚を撮影。
そしてぼく達は、またしても江ノ電に乗って、次なる撮影地に向かう。

次なる目的地は、あの「俺たちの旅」のロケ地でも有名な「極楽寺」駅。
その山間の、土手に彼岸花の群生を見つけ、暫し目先が変わる。
駅の側には、トンネルがあってそこを狙おうとするも、視界を遮る障害物が多し。
そこで今度は歩いて、それこそ馴染みの深い「長谷」駅に向かう。
その静かな住宅街の中を江ノ電が走り抜けていく様は、まさに鎌倉ならではの光景。
ぼく達も、神社の前の撮影ポイントで、ちょっと粘って撮影。
なかなか思ったような写真は撮れなかったものの、お腹も空いたので、近所で昼食。その海が近いことを感じさせる地元の食材を、ふんだんに使った料理は美味。

そして食後、何となくその海に引っ張られるように、「坂ノ下」の海辺へ向かう。空は相変わらずのほぼ青空。しかも葉山方面の山の上には、ちょっと夏な雲。
その浜辺は、ちょっとした入り江になっているので、どちらかというと波も小さいので、それこそサーフィンを始めた頃に、ぼくはこの浜で練習を繰り返した。どうやら最近は、ウインドサーフィンのスポットとなっている模様。それにしても昔は、浜辺の色はもっと白かった。

ちょっとゆっくりと寄り道をしてしまったので、日もだいぶ傾いてきた。
浜辺を歩いたせいか、今度は海抜けで江ノ電を撮影しようと、今一度江ノ電に乗って「鎌倉高校前」駅に向かう。
この光景も、やはり江ノ電ならではのもの。
そんなこんなで、江ノ電は十分に楽しむことが出来た。しかし、こうやって何度も「さよなら」のヘッドマークを付けた最後の「江ノ電」を見ていると、ちょっとだけ感傷的な気分。
しかも、その気分を助長するように、夕暮れが近づいてきた光がその影を伸ばしている。

当初の予定よりも、かなり遅くなってしまったものの、やはりここまで来たんだから、帰りに江ノ島に寄っていこうということになり、江ノ島に向かう。
あたりはすっかり夕暮れ時で、桟橋を渡る頃には久しぶりに見る大きな夕日が、あたりの海面をキラキラと照らしている。そこでまた、その夕日にゆっくりと向かい合ってしまうものだから、時間はいくらあっても足りない模様。
それでも慌てて、「エコカー」なる有料エレベーターで、日没直前の空の下で、数年前に新しくできたぼくにとっても初めての展望台に、急ぎ足で向かう。そこは以前の赤かった展望台に比べても、かなり大きなもので、上に上るとオープンエアーで360°のパノラマが見渡せる。

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先程まで大きく漂っていた夕日も、そのほとんどが地平線の彼方に沈んでしまった。しかしそのおかげで、その瞬間は、偶然にも360°光量がほぼ均一といわれる、まさに「マジックアワー」。

そして、その時間の概念を失う瞬間の中で、ぼくはもっと大きな「過去」と「現在」という大きなタームでも、一瞬その概念を失ったような錯覚を覚えた。
おそらく、その大きな原因のひとつは目の前に拡がる大地のかたちなのかもそれない。
昨今、ここ鎌倉に限ったことではないけれど、街の様相の多くは一変し、それは時にそこが何処だか解らない程になったとしても変わらないものある。もちろん、厳密に言えば全く同じでなかったとしても、その海岸線は、ラインとしての印象は変わっていない。

そのラインと、思い出のラインが重なる、ここは原風景の空。@坂ノ下、鎌倉

December 2017

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